“言葉をテーマにしたミュージアム”。こう聞くと身構えてしまう人も多いのではないでしょうか?「難しそう」、「活字はちょっと・・・」、「国語、苦手だったからな~」って。そんなみなさん、心配ご無用です。良い意味で私たちの予想を裏切ってくれる、ことばのミュージアム。今回はそんな「大岡信ことば館」をご紹介します。
光栄にも、館長である岩本圭司さんに展示を案内いただき、お話をうかがうことができました。
これ、実は一文字一文字を手作業で切り出して作られているんです。材質は家の断熱材に使われているものと同じもの。一文字一文字をニクロム線で切り取って、ペーパーで丁寧にやすりがけをしてから両面テープで貼り付けていきます。文字に厚みがあるので白い壁に影が映り、文字が浮き上がって見えるんですね。この大きさ、圧巻!
「大岡さんは『ことば』は私たちが普段、読んだり書いたり話したりする、いわゆることばだけではなく、美術や音楽・舞踊など人がコミュニケートすることすべてが『ことば』だと言っています。私は造形的な分野で『ことば』を表現して、その楽しさや不思議さや目に見えないおもしろさをみなさんに伝えたいと思っています。」
そう語るのは館長の岩本さん。造形家の岩本さんはZ会の問題集の表紙デザインなどを手掛けてきた関係で、大岡信ことば館設立のメンバーに加わることになったそうです。
このことば館は年に3,4回のペースで企画展を行っています。過去には大ヒット映画「君の名は。」で注目の映画監督 新海誠さんの展示や、漫画家 ますむらひろしさんの作品展示も。彼らが作った作品をそのまま展示するだけでなく、彼らの中から立ち上がってくる「ことば」を取り上げて会場の中に置く。見る人に「作品」と「ことば」をいつもとは違った方法で感じて帰ってもらうことが目標だそうです。
--今回の展示の中にも、意味を持たないことばの持つ音の響き・おもしろさを楽しむ作品がありました。また、美術作品と一緒にことばが展示されていると、作品や詩を単独で眺めているよりも心に伝わるものが多いように感じました。
「そうですね。逆にその良さをお互いに潰してしまう危険性もあるんですけどね。作品のビジュアルを目にしてしまうと、ことばがそこに縛られてしまうことがあるので。その辺のバランスは難しいところですね。今回の展示に関してもお互いを縛り合うことがないように気を付けています。」
--美術館に来ると「しっかり作品の意図を理解しなきゃ!」と緊張することがあります。
「人によって楽しみ方は違っていいんです。たくさんある作品の中のどれか一つでも、自分の中に取り込んで帰ってもらうことができればうれしいですね。」
この作品以外にも、チベット仏教のマニ車(回転させた数だけ経を唱えるのと同じ功徳があるとされる仏具)のような円筒状のものに詩を巻き付けた作品もありました。マニ車は手で回すことができますが、こちらの作品は自分自身がその周りを歩かないと詩が読めないようになっています。鑑賞者自身が自然と行動を起こしてしまうよう工夫された、おもしろい展示です。
出口に向かう途中、白い壁に挟まれた細い通路を通ります。
片側の壁には大岡さんが谷川さんへ贈った詩が、もう片方には谷川さんからのお返しの詩が。壁に挟まれて詩を読んでいると、なぜか心が落ち着きます。背中に感じる壁の存在感が心地いいのです。
ことば館に足を踏み入れてすぐ目の前に広がる白い壁、そして出口に向かうための細い通路。すべて見る人のことを考えつくしたデザインです。「空間をデザインすることは本を作るのと同じだと思う。」と岩本さんは言います。「階段を上がって来た時にまず何が見えるか、進む道筋には何があるか…。小説のように空間にも展開があると思っています。」企画展ごとに3Dソフトで空間を確認し、作り込みながら空間の物語性を熟成するのだそうです。
私たちは毎日たくさんのことばに囲まれて生活しています。深く考えず、無意識のうちにことばを使ってしまうことも。たまにはこんな風にことばとじっくり向き合える空間に身を置いてみるのもいいですね。ことばの持つ力を改めて感じることができそうです。
開館時間:10時~17時 ※入場は16時30分まで 休館日:毎週月曜(ただし、祝日の場合は開館し翌日休館)年末年始、展示替え期間 入館料:展覧会によって異なる 未就学児 無料 大岡信ことば館ホームページ http://kotobakan.jp/ |